「老後資金に不安はない。でも、胸にぽっかり空いたこの穴は埋まらない――」。資産1億円を築いた68歳男性が抱える“想定外の後悔”。人生をかけてお金を貯め続けた結果、何が残ったのでしょうか。FPの三原由紀氏が、ある一人の男性のケースから「人生とお金のバランス」の考え方を解説します。

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何もしないで1日が終わります…資産運用で「資産1億円」を達成した68歳元会社員。人生勝ち組のはずが、潤沢な残高を見ても“心は空っぽ”の老後「時間が取り戻せたら」【FPの助言】
お金はある。けれど、ひとりの昼下がりがこんなに長いとは……
東京都在住・加藤誠さん(仮名・68歳)は、中小企業に勤めるごく普通のサラリーマンでした。 年収は50代で500万円台。大手企業勤めの学生時代の同級生たちに比べれば、決して高いとはいえない収入でした。そのため将来への不安は常につきまとい、「とにかく老後に困らないように」と、30代後半から本格的に節約と“財テク”に励むようになりました。
「飲み会は月1回、昼食は手作り弁当。休日は図書館で投資本を読んで過ごしました。当時はまだYouTubeもなかったので、地道に勉強会に通いながら学んで…投資は、ある意味、自分の“ライフワーク”のようなものでした」
投資スタイルは、いわば“堅実派”。投資初期には、勧められるままに購入した債券で痛い目に遭ったことも。少し回り道もしましたが、高配当株を中心に買い集め、配当金が貯まったら買い増す投資法に落ち着きました。大きな勝負はしない代わりに、少しずつ着実に資産を増やしていきました。
そうして60歳の定年時点での総資産は約7,000万円。65歳になるまでは、再雇用で働きながら投資を継続。コロナショック時に買い増しをしたことも結果的には吉と出て、現在の総資産は1億円を突破。年間の配当収入は300万円、夫婦2人分の年金は240万円と、生活に困る要素はまったくありません。
「おかげで、何の不安もない。正直、お金の面では“勝った”と思っていますよ」そう語る加藤さんですが、どこか表情は曇っています。
「でも、最近ふと思うんです。……これで、よかったのかって」