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プロ・デビューしてから様々な記録をつくった、藤井聡太七冠
将棋の名人戦七番勝負・第81期第5局が2023年5月31日~6月1日に長野県高山村の藤井荘で行われ、挑戦者の藤井聡太六冠(当時)が渡辺明名人を破り、4勝1敗でタイトルを獲得し、七冠となった。七冠は1996年に当時25歳4ヵ月で達成した羽生善治九段に続く2人目で、20歳10ヵ月での達成は、最年少記録更新となった。なお、1996年にはまだ2017年度からタイトル戦に昇格した一番新しい叡王がなかったので、羽生善治九段は当時の全タイトルを獲得した七冠だった。
現在の将棋界には8つのタイトルがあり、七冠になった2023年6月時点で、残る王座のタイトルは永瀬拓矢王座が持っていた。藤井聡太七冠は王座戦・挑戦者決定トーナメントを戦っていてベスト8に進出していた。棋聖、王位の二冠を防衛したうえで、王座戦のトーナメントを勝ち進み永瀬拓矢王座との五番勝負にも勝って、2023年10月に、史上初の全八冠制覇を成し遂げた。
藤井八冠(当時)=棋聖・竜王・名人・王位・叡王・王座・棋王・王将=が2024年6月20日の第9期叡王戦五番勝負第5局で伊藤匠七段に敗れ、叡王のタイトルを失い七冠に後退した。将棋界初の八大タイトル独占は8ヵ月余りで崩れた。
藤井聡太七冠はプロ・デビューしてから様々な記録をつくり、その都度大きな話題を提供する活躍をしてきた。プロ・デビューは2016年12月24日の第30期竜王戦6組ランキング戦、「ひふみん」こと加藤一二三・九段(引退)との対局だった。両棋士の年齢差は62歳6ヵ月で、当時プロ棋士の公式戦での最大年齢差対局と話題になった。
それまで最年少棋士記録を保持していた加藤九段に14歳5ヵ月で勝った藤井七冠(現在)は、公式戦勝利の史上最年少記録を更新した。当時の景気局面は拡張局面だった。2017年4月4日に11連勝でプロ・デビューからの連勝記録を更新し、6月26日に、神谷広志八段が1987年に記録した28連勝を抜き、29連勝でデビューから無敗のまま歴代最多連勝記録を更新した。神谷八段の新記録更新時も、藤井七冠の新記録更新時も、どちらも景気は拡張局面だった。
新型コロナウイルスの緊急事態宣言が解除されて、2020年6月8日の棋聖戦第1局で、17歳10ヵ月でのタイトル挑戦最年少記録を更新、さらに17歳11ヵ月になった7月16日に渡辺明・前棋聖を3勝1敗で破り、タイトル獲得最年少記録を更新した。その後、藤井七冠はタイトルを防衛しつつ、新たに王位、叡王、竜王、王将、棋王、名人、そして八冠目として王座の順にタイトルを獲得していったが、その度に大きな話題となり、人々に明るい話題を届けた。景気は2020年5月が谷なので、藤井七冠が各々のタイトルを獲得してきた景気局面は拡張局面だった。

※藤井八冠は2024年6月20日叡王戦第5局で挑戦者の伊藤匠七段に敗北。254日間保持した八冠から七冠に後退した。
(出所)日本将棋連盟、内閣府
藤井七段の食べた「おやつ」への特需も
羽生善治九段が25歳4ヵ月で最後に王将を獲得し七冠を達成した1996年2月も景気拡張局面だった。現在はやや報道の頻度は落ちた感があるが、藤井七冠の挑戦、防衛いずれのタイトル戦でも、「昼食やおやつが何か」も大きく報じられ、藤井七段の食したおやつへの特需が見られた。
また、名人のタイトルに関しては、谷川浩司十七世名人が持つ21歳2ヵ月の最年少名人記録を約40年ぶりに更新した。将棋界で最も歴史がある名人戦が現在のようなかたちで行われるようになって、最初の最年少での獲得は3人目の名人になった大山康晴十五世名人だった。獲得日は1952年7月16日、29歳4ヵ月での20歳台での獲得と話題になったようだ。
1972年9月2日に5人目の名人になったのが中原誠十六世名人で、24歳9ヵ月での獲得は、約20年ぶりの最年少記録の更新だった。
藤井七冠が記録を更新するまで、21歳2ヵ月の最年少記録を持っていたのが、7人目の名人の谷川浩司十七世名人で、獲得日は1983年6月15日、約40年間記録を保持していた。
16人目の名人・藤井七冠まで4人とも名人の最年少獲得記録を更新するという歴史的な話題が出た時期は、すべて、景気は拡張局面に当たっている。明るい話題は、人々の景況感を高めるのだろう。
宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
景気循環学会 副会長 ほか