
「親」に期待されていること
親として、私たち大人は、家族のリーダーであることを期待されている
すなわち、すべてを引き受け、責任を負い、見通しを立てて家族を導き、子どもの成長に目を配り、立場を明確にし、家族が従うべき考え方、イデオロギー、あるいは包括的な価値観を体現することを期待されている。
世界で最も強力なリーダーシップを発揮するのはアメリカ大統領だと私たちは小学1年生のときに教わるが、やがて誰もが知ることになる。現在と未来の自分に対して最も大きな影響を及ぼすのは、大統領よりもっと身近に、より長期にわたってともにいる自分の両親である、と。親であることの責任及び資格が、親であることを、この世で最も影響力の強い仕事の1つにしている。そして大半の大人が親になるので、多くの人にとって、意識しているかどうかはさておき、親であることがおそらく最も意義深いリーダーシップ経験になる。
10歳の子どもが(衣食住以外で)親から得る必要のあるもののうち、特に重要なものは何だと思うかを、子どもを持つ大人に尋ねると、だいたい次のような答えが返ってくる。
1 愛情
2 理解
3 柔軟性
4 隠し事をしない
5 温かさ
6 ユーモア
7 心の広さ
8 話をよく聞く
9 個性の尊重
10 子どもが興味を持つことに関心を持つ
いずれも、どんな人の心も温かくなるにちがいない答えばかりだ。だが、これだけで、成果の出るペアレンティング、すなわち、親として発揮すべき効果的なリーダーシップが網羅されているのだろうか。これらの答えが現実にどのような行動になるのかについて、私は子どもを持つ人々に、たとえば次のように尋ねてみることがある。
「10歳のわが子が近所のドラッグストアで万引きをしていると気づいた場合、私たちはどうしたらいいでしょうか」
すると次のような答えが返ってくる。
「理由を尋ねるべきです」「子どもとよく話し合います」「愛情をもっと注ぎます」「万引きする子どもは、何かを必要としています。何なのかを突きとめて、与えます」
そのうち、部屋の後ろのほうから、度胸があると言うべきか、たいてい少し挑戦的な調子でこう答える人が出てくる「私なら、子どもに向かって怒鳴ります。私が怒っていることがわかるように」。
「本当に?」私は驚いて聞き返し、部屋にいるほかの人たちは、グループに紛れ込んでいた野蛮人からそっと遠ざかる。
「本当に怒るのですか。『心の広さ』や『理解』や『個性の尊重』はどうなりますか」