景気ウォッチャー調査から、エリアの「消費マインド」を読む…東日本大震災時、はるか遠方の沖縄に見えた「特異な行動」とは?

景気ウォッチャー調査から、エリアの「消費マインド」を読む…東日本大震災時、はるか遠方の沖縄に見えた「特異な行動」とは?

約40年にわたり国内外の景気分析をしてきたエコノミスト・宅森昭吉氏が、景気や市場を先読みするヒントを紹介する本連載。今回は、過去の景気動向指数(DI)をさかのぼり「非常時に見られた特異な行動」についてみていきましょう。

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極めて印象深い結果になった、2011年3月の景気ウォッチャー調査

東日本大震災が3月11日に発生した直後の2011年3月「景気ウォッチャー調査」(調査期間:3月25日~31日)の結果は印象深いものになった。被災地を含む東北の有効回答率が91.4%と驚異的に高い数字になった。なお、この当時は主要DIの季節調整値の公表はまだ行われていなかった。現在は、過去に遡って季節調整値が内閣府HPに掲載されているが、本稿では2011年当時と同様に原数値のDIで記述した。

 

2011年3月の現状判断DIは、27.7と2月から20.7ポイントの大幅低下となった。家計動向関連DIは、東日本大震災の発生を受けて、地震直後に水、食料品、防災用品等で高い売上の伸びを示したものの、物流の停滞による商品の入荷が不足したこと、消費マインドの冷え込みや自粛ムードによる買い控えや飲食・旅行・宿泊分野でのキャンセルの続出、計画停電による営業時間短縮などにより、大幅に低下した。

 

企業動向関連DIは、一部で復旧需要や被災企業に代わる代替生産のための受注増がみられたものの、生産設備等の損壊や取引先企業の被災、原材料・資機材の供給不足や入荷の遅延、原燃料価格の高騰によるコスト上昇、計画停電などにより、生産活動に支障を来し大幅に低下した。雇用関連DIは、震災後に企業の先行き不安感、一部の企業で採用や求人の見直し・延期がみられたことから、大幅に低下した。

 

2011年3月の先行き判断DIも、26.6と前月比20.6ポイントの大幅な低下となった。被災後の復旧需要が期待される一方で、経済の先行きや、計画停電の状況、福島第一原子力発電所事故による影響等について不透明感を持っていたことなどが大きく足を引っ張った。内閣府は、景気ウォッチャーの見方を、「景気は、東日本大震災の影響で急激に厳しい状況になっている」とまとめた。

 

景気ウォッチャー調査2011年3月調査で「東日本大震災」関連判断DIを作成すると、現状判断DIは27.7と全員が「やや悪くなった」と回答した25.0に近い悪い数字になった。「東日本大震災」の現状判断に関するコメントをした景気ウォッチャーは1,057名で回答者の57.2%だった。

 

「東日本大震災」関連現状判断DIを地域別にみると、被災地の東北が13.5と極めて悪く、北関東も18.7と悪い数字だった。この2つの地域の「東日本大震災」に関するコメントをした景気ウォッチャーは回答者の60%超になった。

 

(注)◎「良」、○「やや良」、□「不変」、▲「やや悪」、×「悪」 (出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成。
「図表1]2011年3月調査:地域別「東日本大震災」関連現状判断DI (注)◎「良」、○「やや良」、□「不変」、▲「やや悪」、×「悪」
(出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成。

 

「東日本大震災」関連判断先行き判断DIは25.3になった。「東日本大震災」の先行き判断に関するコメントをした景気ウォッチャーは922名で回答者の49.9%だった。

 

「東日本大震災」関連現状判断DIを地域別にみると、被災地の東北が21.6、北関東が19.5と悪い数字だった。「東日本大震災」に関するコメントをした景気ウォッチャーは東北で回答者の50.5%だったが、北関東は42.5%と全国平均49.9%を下回った。

 

(注)◎「良」、○「やや良」、□「不変」、▲「やや悪」、×「悪」 (出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成。
[図表2]2011年3月調査:地域別「東日本大震災」関連判断先行き判断DI (注)◎「良」、○「やや良」、□「不変」、▲「やや悪」、×「悪」
(出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成。

特異な動きを示した「沖縄」、観光業を中心に自粛ムードへ

地域別にみて、特異な動きとなったのは沖縄だった。被災地から離れていて、一見影響がなさそうな地域であったが、「東日本大震災」に触れた景気ウォッチャーの中で、「良」「やや良」どちらのコメントがなかったのは沖縄だけであった。「東日本大震災」関連判断DIは、現状判断DIが17.9、先行き判断DIが19.7とどちらも10台と極めて悪かった。特に「東日本大震災」関連先行き判断DIは東北を下回り、北関東に次いでワースト2位になった。

 

東北から離れた沖縄で東日本大震災関連コメントから算出される関連DIが大きく悪化したことは、観光業を中心にした自粛ムードによる景況感悪化を示唆する動きであった。

 

コメントをみると、現状判断で「3月11日の東日本大震災後から、観光客のキャンセルが相次ぎ、貸出台数が前年比80%と厳しい状況になっている」(その他のサービス[レンタカー]の営業担当)、先行き判断で「東日本大震災の影響を受け、沖縄県の観光産業全体に影響が出てくる見通しである。現在予約受注状況も非常に悪く、大きく前年を下回る稼働率が予測される。この状況はいつ回復するか分からない」(観光型ホテルのマーケティング担当)というものであった。

 

被災地や被災された人を思いやりレジャーなどを自粛することで、被災地から遠く離れた地域でも観光業などに与える自粛の悪影響がはっきりした。こうした「景気ウォッチャー調査」の結果に対する反省が、積極的に被災地へ旅行することや、被災地の商品を購入することなども、復興支援につながるという前向きな動きが大きくなるきっかけのひとつになったと思われる。

 

東日本大震災が発生した2011年には景気は後退局面入りせず、思ったより早く立ち直ったが、「景気ウォッチャー調査」は、いち早くこの状況を示唆していた。震災が発生した2011年3月でも東北の回答率は91.4%と高く、そのまま統計として利用できた。3月から5月までの3ヵ月間はコメント数が多く、全体のDIも落ち込んだが、「東日本大震災」関連現状判断DIは全体DIを下回っていた。6月になると関連DIが全体のDIを上回るようになった。復興支援ということで、全体の景気を引っ張っていく明るいムードが出てきたことがいち早くわかったのである。

 

(注)◎「良」、○「やや良」□「不変」、▲「やや悪」、×「悪」 (出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成。
[図表3]「東日本大震災」関連現状判断コメント集計表(2011年3月~7月) (注)◎「良」、○「やや良」□「不変」、▲「やや悪」、×「悪」
(出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」より作成。

 

 

宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
景気循環学会 副会長 ほか

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